§・4    前立腺がんの後遺症


■ 軽度〜中等度の排尿障害

外尿道括約筋

軽度の排尿障害では、骨盤底筋を鍛える運動が基本となりますが、 外尿道括約筋を締める薬(スピロペントetc)や、「切迫型」の尿漏れに対しては 過活動膀胱を抑える薬(抗コリン薬)を併用します。 適宜、尿パッド失禁パンツなどのケアアイテムを用い、治療・訓練を続けるうちに数週間から数カ月で治るものがほとんどです。
薬が効きにくい軽度〜中度の排尿障害では、装着型収尿器ペニクランプを用いたり、コラーゲン注入術スリング術を行うこともあります。

   尿パッド・失禁パンツ

    ズレを予防できる男性専用パッドはほとんどないので、男女共用型を失禁量に合わせて使用する。(写真は男性用パッドの一例)
    失禁パンツ(図-1)は、前側に吸収体が入っていて、30mL以内の少量の漏れに対応できる。

   装着型収尿器

    使い捨てタイプ(図-2)は、直接ペニスに付けるので、長時間付け続けるとスキントラブルを起こ す可能性がある。
    再利用タイプ(図-3)は、パンツ内に固定された受尿器に逆流防止弁の付いたチューブ部分が接続されている。 スキントラブルはこのほうが少ない。
    受尿器は、排泄姿勢により、一人ひとりに適したタイプが選べる。

   ペニクランプ

    ペニスを挟み、漏れを防ぐ用具(図-4)です。簡便に使用でき、漏れその ものを抑えることができますが、少なくとも2〜3時間ごとにペニスを解放する必要がある。 長時間、使用しているとうっ血を起こす可能性があるので、自己管理ができることが使用条件の一つ。
    切迫性尿失禁で膀胱の収縮が激しい患者には適しない。

   コラーゲン注入術 (医療保険適用あり)

    内視鏡を使い尿道粘膜の下にコラーゲンを注射する方法。
    比較的簡単で合併症も少ないが、確実性と持続性に欠けるのが欠点。

   (尿道)スリング術 (医療保険適用あり)

    外尿道括約筋の機能がある程度残っており、 腹圧時に尿道が後方にぐらつくタイプの尿失禁で、失禁量が200-300g/日 程度までの軽〜中度の排尿障害に対しては、 尿道を恥骨側に人工テープで吊り上げる「スリング術」によりしばしば症状の改善がみられる。 女性の尿失禁にはこの「ぐらぐら型」が多いので、スリング術が広く用いられているが、 全摘術後の尿失禁に対しては確実性は乏しい。ただし、自然排尿ができるのが利点。

■ 高度排尿障害・・・人工尿道括約筋

外尿道括約筋

排尿のコントロールは主として外尿道括約筋(右図参照)で行われ、膀胱頸部の内尿道括約筋が それを補佐しています。
前立腺がんの場合、全摘除術後の排尿障害は、つきものと言っても過言ではありませんが、 これらのほとんどは、一時的なものか、もしくは障害が残っても、なんとか我慢できる程度に留まっています。
しかしながら、約1〜3%の患者は、手術時に外尿道括約筋を損傷するなどして、 (いわゆる手術ミスもあれば、浸潤状態により止むなくそうなるケースもある) 尿道の締め付けが物理的に難しくなり、 多量かつ頻繁な尿漏れが継続する、いわゆる「ゆるゆる型」の高度排尿障害に悩まされます。
おむつの常用が欠かせず(年間の出費が数十万!)、外出もままならず、ひきこもりから鬱を発症する人もめずらしくありません。
こうした高度排尿障害の患者は年間数百人と見られていますが、男性尿失禁治療に習熟している医師、医療機関は極めて少なく、 自分に適した治療法を知る機会もないまま”見放されてきた” のがこれまでの実情でした。

骨盤底筋を鍛える体操や薬物療法が無効で、外尿道括約筋の機能が損なわれていると思われる高度尿失禁(400g/日が目安)に対する 唯一効果的な治療法は「人工尿道括約筋」の埋込み手術です。
半数近くの患者でほぼ完全に尿失禁がなくなり、約9割が生活に支障がない程度に改善するという治療法で、 米国ではすでに30年以上の実績を有し、「教科書にも載っている男性重症尿失禁治療のゴールドスタンダード」とのこと。
しかし、わが国では、まだ限られた医療機関で、先進医療として行われているにすぎないのが実情です。 160〜170万という高額医療費も、人工尿道括約筋の普及発展の妨げとなっていましたが、 2012年1月30日に開かれた中央社会保険医療協議会総会で2012年4月より保険適応となることが決定しました。
重度の尿失禁に悩む人にとって大きな朗報でなり、人工尿道括約筋の普及にもこれではずみがつくと思われます。

人工尿道括約

人工尿道括約筋の埋め込み術は全身麻酔下で行われ、手術の所要時間は1〜2時間。入院期間も1週間弱。 外見上装着の有無はわかりません。また、感染や機器の初期不良さえなければ、長期間の継続利用が可能で、国内のデータでも、 10年間継続利用している患者の割合が7割を超えています。
激しい運動も可能で、少量の尿漏れや尿滴下がある以外、尿失禁は認められなくなります。 人工尿道括約筋を開発した米国のAMS社によると、これまでこの治療を受けた患者は、全世界で13万人に上るということです。

<人工尿道括約筋のしくみ> (右図参照)

【図-1】 通常はカフに循環液(生理食塩水)が満たされ尿道を締
     め付けているので、膀胱内に尿が溜まる。

【図-2】 陰嚢内のコントロールポンプを押すと、カフ内の循環液
     がバルーンに移動し、カフが緩んで排尿が可能となる。

【図-3】 排尿終了後は、数分で自動的にバルーンの循環液がカフ
     に移動し、また尿道を締め付ける。


   <人工尿道括約筋手術」で先進医療指定を受けている病院> (平成22年12月現在)

       ・原三信病院(福岡市) ・東北大学病院 ・北海道大学病院 ・北里大学病院 ・東京医科歯科大学病院
       ・国立がん研究センター中央病院 ・島根大学病院
       

   <人工尿道括約筋の緊急時トラブルに対応できる病院> (全国で20箇所)

       ・旭川医科大学病院 ・北海道大学病院 ・東北大学病院 ・八戸市立市民病院 ・秋田大学病院 ・東京医科歯科大学
       ・国立がん研究センター中央病院 ・東京女子医科大東医療センター ・帝京大学病院 ・東京大学病院 ・北里大学病院
       ・日本大学板橋病院 ・山梨大学病院 ・西野クリニック(各務原市) ・近畿大学病院 ・関西医科大学枚方病院
       ・島根大学病院 ・香川大学病院 ・原三信病院 ・琉球大学病院
       

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