§・2 病状に適した治療法を見つけよう  



  ■ 前立腺がん治療法早見表 

 

下の「前立腺がん治療法早見表」であなたの治療法が見つかるはずです ・・・  たかが早見表、されど早見表!

どれを選ぶかはそれぞれの個別事情に照らし合わせてあなた自身で決めてください。
主治医の説明を良く聞かれることはもちろん大切ですが、 どの治療法を勧めるかは主治医によって意見が異なるでしょう。
患者として気をつけなければならないのは、主治医の意見がはたして全治療法に対し 客観的かつ公平かどうかです。
 ・自分の手掛け易い治療法、もしくはを自分の病院で可能な治療法を勧める。
 ・詳しくない治療法もしくは他の診療科、他の病院でしかできない治療法は勧めない。
こうしたことが案外良くあるので、十分注意されたほうが良いと思います。
一方的に手術を勧め、入院日まで急かすような場合は、とりあえず「考えさせてください」と言って逃げたほうが賢明でしょう。
考える時間がないほど症状が急激に進展するようなケースは前立腺がんではまずありません。
早見表の「お勧め」にはひげの父さんの主観が混じっています。○印だけでは治療法が多すぎて判りにくく、方針を絞り
やすくするためあえて優劣を設けた結果ですが、それを嫌う方は丸印の種別は無視し、すべて同等の推薦度だと思って
見ていただければ結構です。
国立がん研究センターの”がん情報サービス”等とも比較検討の上、じっくりご判断ください。


前立腺がん治療法早見表

  (注1)外科療法(全摘除術)は余命10年以上が期待できる(日本では概ね77歳以下)健康な人に適用

*期待余命
   平均余命(下表)に健康状態を加味(±50%)して判定する。
        ・期待余命=平均余命±(平均余命x50%)
   平均余命20年とは概ね63歳、平均余命10年とは概ね77歳

    簡易生命表

*早見表作成に利用した参考資料(優先順)

1・ NCCN:前立腺癌治療ガイドライン(2010)  NCCN:国立包括的がんネットワーク委員会(米)
2・ 前立腺がんPDQ標準治療(翻訳)  NCI:国立がん研究所(米)
3・ 前立腺がん解説  国立がん研究センター(日)


■ 治療法の解説


1・  監視療法 がんサポート情報センター 「前立腺がん治療におけるPSAとの上手な付き合い方」
 

米国のデータによると低リスク群で10年以内に癌で死亡する確率は20%以下であり、10年生存率は治療を行っても
行わなくても変わりません。また、定期的にPSA測定を行い経過観察を続けながら、なんらかの変動があった時点で
対応策を考えても、早期がんの域を外れることはなく”手遅れ”にもなりません。
つまり、特別な処置をしなくても健康なまま天寿を全うできる可能性が高いというのが低リスク群の特徴であり、経過観察
が”監視療法”という治療選択肢の一つとして積極的に評価される理由がここにあります。
近年手軽なPSA検査が広まったため、その敏感な反応に惑わされ、勧められるまま発見確立の低い針生検を受け、
その結果たまたまがんが見つかった場合、それが低リスク群であるにもかかわらず大騒ぎをして、やらずもがなの手術や
放射線治療に走るケースがままあるようです。
監視療法というのは、本来は定期的にPSAの動向を見守るだけですが、日本ではホルモン療法を併用する場合も多いようです。
不安を和らげるのに薬が役立つならそれも良いのでしょうが、ホットフラッシュ、勃起不全などの副作用は付いて回ります。
低リスク群なら年齢に関係なく、まずは監視療法を考えてみるのが良策と思われますが、日本の医療機関では、
この療法をまだ積極的に評価していない所も多くあり、患者が不安からなんらかの処置を望めば(患者に余程の予備知識が
ない限り、そう思う方が自然です)患者の望む通り、ホルモン療法を行うケースが多いと思われます。
期待余命の長さが10年以内(概ね75歳以上)なら中リスク群でもこの療法が成立します。
期待余命が5年以内と目される高齢患者で自覚症状がない人、他に重い病がある人にもお勧めです。

2・  外科療法・全摘除術 がんサポート情報センター 「前立腺がん全摘手術にはロボット手術が断然有利」
京大病院  (神経移植術)

米国では70歳(日本では75歳を採ることが多い)未満で外科手術を希望する健康な患者が対象となる。
低リスク群でリンパ節転移の可能性が低い場合除き、通常骨盤内リンパ節郭清も同時に行なわれることが多い。
術後3週を経過してもPSAが下がりきらない時は術後放射線療法の検討も良い選択肢。術前(ネオアジュバント)
ホルモン療法は米国では有用性は確立されていないとしてあまり用いられないが、日本ではめずらしくない。
開腹手術としては下腹部を縦に(or横に弓なりに)切る恥骨後式が多い。入院期間は重要な合併症がなければ約10日。
骨盤内リンパ節郭清を必要としない場合は、体への負担が少なく性機能も温存しやすい会陰式が用いられることもある。
ただ、現在日本での手術のほぼ9割は恥骨後式で行われている。
手術創が小さく回復が早い腹腔鏡手術も健康保険で行われるようになった(2006年4月より)が、執刀医の腕に左右
されることが多いので実績の事前確認が重要。
これとは別に、内視鏡下小切開手術という方法もある。内視鏡を併用し5cm程度の小さな開腹口から手術を行うもので、
腹腔鏡手術より緊急時の対応がすばやく出来るとも言われている。これも医療機関によって得手不得手があり、
先進医療扱いであったが、2008年4月より健康保険が効くようになった。
米国では遠隔操作によるロボット手術が前立腺がん手術の主流(手術全体の8割)となっているが、我が国ではまだ
きわめて少ない。2009年、日本でもこのロボットが薬事承認され、2010年には先進医療として認められた。
今後はロボット手術の普及がスピードアップする見通し。(現在、我が国で最も実績が多いのは東京医科大学)
手術の合併症では性機能不全が圧倒的に多い。尿失禁や尿道狭窄もあるが、これらは数カ月で状態が改善することが
多い。
勃起神経温存あるいは勃起神経同時移植も医療施設によっては可能だが、必ずしも結果が良好とは限らない。

3・  高密度焦点超音波療法
 HIFU(ハイフ)
東海大八王子病院 http://www.hachioji-hosp.tokai.ac.jp/hp/k-hinyouki/6.htm  
帝京大病院 http://www.med.teikyo-u.ac.jp/%7Ehospital/annai/HIFU/body.html

低・中リスク群に適用。 低リスク群でPSAが低いほど好結果だと言うが、PSAが高いと治療成績がかなり落ちてしまう。
体への負担が小さいが、肥大した前立腺には不向き。まだ標準治療とはみなされていない。
大げさな治療機械を要しないので、今後中小の医療施設への普及も期待できる。
排尿障害が良くあるがほとんどは一時的。まれに腸・膀胱の障害も。性機能障害は少ない。
入院期間は短い、2〜3日。施設によっては日帰りが可能なところも。
再燃時は再度HIFEを行う、他の療法を選択する、いずれも可能。

4・  密封小線源組織内照射
 ブラキセラピー
東京医療センター 「I125シード線源を用いた小線源療法の説明」
日本メジフィジックス http://www.nmp.co.jp/seed/index.html

米国では十分な実績を持つ。線源を体内に留置するため日本では放射能管理上の問題で長らく認められなかったが
2003/7月ようやく認可された。
ブラキセラピー単独の場合は、低リスク群を対象。中・高リスク群においては外部照射を併用する。
排尿障害が良くあるがほとんどは一時的。まれに腸・膀胱の障害も。性機能障害は少ない。
入院期間は短くてわずか数日(欧米では日帰りも)。治療希望者が多く数ヶ月治療待ち状態の医療施設が多い。
当初は、簡便さばかりが強調されたが、最近は外照射と併用した場合、生物学的線量を外照射単独よりも高くできる
ことが 注目されはじめている。日本で治療実績が最も多いのは、東京医療センター。

5・  高線量率組織内照射 大阪大学病院 http://www.med.osaka-u.ac.jp/pub/radonc/www/microselectron.htm
 

高線量組織内照射はブラキセラピーが未認可の頃から用いられてきた治療法で、シールドを一時的に刺入し
高線量率線源をアフターローディングする方法。ブラキセラピーよりも適応範囲が広く、病期Cにも対応可能。
ただし病期Cは線源の威力のうすれる周辺浸潤部をもつため、普通外部照射を併用する。
術者の被爆の危険度はブラキセラピーに比べて少ない。
排尿障害はしばしば見られる。まれに腸・膀胱の障害も、性機能障害は少ない。
入院期間は2週間ほど。組織内照射(4・5)は別名、近接照射と呼ばれることもある。

6・  外部照射 放射線医学総合研究所 http://www.nirs.go.jp/hospital/radiant01/index.shtml (重粒子線)
京大放射線科 強度変調放射線治療(IMRT)

前立腺は体の深部にあり、前面は膀胱、背面は直腸と接しているため、放射線照射には高いビームエネルギーと
高精度が要求される。三次元原体照射(3D-CRT)、IMRT、粒子線等がこれに該当し、副作用を抑えつつも限局部に
高線量照射(72〜80gy)を行うことが可能。二次元照射は疼痛緩和や予防照射を除いて前立腺がんには不向き。
3D-CRTは比較的多いが、IMRTの実施はは47施設(2010年秋)。
手術に上手下手があるのと同様、IMRTと一口に言ってもその信頼性は異なります。
信頼できるところはまだその1/3? 医療機関の選択にはくれぐれもご用心を。
近頃はIMRTの人気も上昇し、半年前後の待ちも珍しくありません。
重粒子線治療施設は国内に3ヶ所、陽子線治療施設は6個所で、近年中にまだ数ヵ所増える予定です。
IMRTは2008年4月より健康保険扱いとなったものの、粒子線治療は高度先進医療扱いのため治療費300万強が必要。
IMRTは優れた照射法だが、コンピュータによる複雑な計算が必要。
治療計画を立てたり放射線量を厳密に管理する必要から、放射線治療医と医学物理士の協働は欠かせないが、
共に人材が不足している。
高リスク群に対するホルモン療法の併用は、照射前だけに留めるか照射後も続けるかは医療機関によって異なる。
近年は照射後も継続することが多い。(ホルモン療法の期間は、トータルで2年〜2年半程)
高精度外部照射の治療効果はいずれも手術と比べて遜色がなく、副作用も概して手術より小さい。
特に高リスク群(2)では手術よりも高精度外部照射がお勧め。
近年新しい治療機器(ノバリス・トモセラピー・シナジー等)が次々と登場しているが、
高性能マシンを使いこなせる技量が伴っているかどうかが気になるところ。
外部照射は2gy/dayの分割照射とすることが多く、治療期間の長い(7〜8週)のが難点。

7・  内分泌(ホルモン)療法 生活習慣病情報(武田薬品) http://www.takeda.co.jp/pharm/jap/seikatu/zg/b2/b2.html
   
 

前立腺がんは男性ホルモンに依存しているため、男性ホルモンの分泌を抑えたり(LH-RHアナログ剤)、その作用の
発現を抑えることにより(抗男性ホルモン剤)、前立腺がん細胞の増殖と活動を抑制する治療法。
ほとんどの前立腺がんがホルモン療法によく反応するが、まれに、初めからこの療法が効かない悪性のがんもある。
精嚢撤去は、LH-RHアナログ剤がほぼ同等の効果を示すため、あまり行われなくなってきた。LH-RHアナログ剤は
下垂体から精巣へのLH(黄体ホルモン)分泌を妨げ、精巣からの男性ホルモン放出を防ぐが、フレアアップ現象と言って、
一時的にLH分泌が増え逆効果が出ることもある。1月(or3月)に1回、へそ周辺等の皮下脂肪層へ注射するのが標準。
副腎からの男性ホルモンも合わせて防ぐには抗男性ホルモン剤を併用する必要があるが、これをMAB療法と読んでいる。
(MAB=Maximam Androgen Brockade、TABまたはCABという呼び方もあります)
高リスク群の場合は手術や放射線療法の前/or後(ネオアジュバント療法/orアジュバント療法)にホルモン療法を併用
する。日本では低・中リスク群に対してもホルモン療法を併用する例が多いが、米国では標準療法とされていない。
女性ホルモン剤は副作用(心血管系障害)を懸念し、米国では現在ほとんど用いられていないが、日本では一部の
合成女性ホルモン剤が製造中止で使えなくなったものの、まだ同類の薬剤が用いられている。
ホルモン療法は長期にわたると耐性が生じ効果が薄れるのが一般的。ドセタキセル等の抗がん剤は、ホルモン療法に
耐性が生じてから用いられることが多い。
ホルモン療法が長引くと骨密度の低下をきたすと言われており、ゾメタなどのビスフォスフォネート剤が、骨粗鬆症
予防と骨転移に有効とされているが、日本では骨転移後の患者に対しても、まだ6割程度しか使用されていない。

8・  疼痛緩和療法 JPAP(Japan Partners Against Pain) http://www.jpap.jp/gen/
   
 

これまで緩和療法はとかく終末期治療と誤解されがちであったが、今後は、できるだけ早期から他の治療法と平行して、
適用を考慮する必要があると考えられている。(緩和療法の早期適用はがん対策基本法の理念の一つでもある)
術後の疼痛緩和にしても、もっと積極的に患者に痛みを感じさせない方法が採用されてしかるべき。
がん性の疼痛緩和はQOLの維持の上からも重要。基本はWHOによる3段階除痛ラダーに基づきオピオイドを適切に使用
すること。ただし、前立腺がんに多い骨転移痛は強くなるとオピオイドが効かない場合も多い。
骨痛緩和には放射線の外部照射が有効。胸椎や腰椎に圧迫骨折の恐れがある場合予防的照射を行うこともある。
ビスフォスネート剤(ゾメタ)は骨密度の増加、骨関連事象の緩和に効果がある。骨転移の予防にも効果があるという
研究発表もあるが、広く認知されるには至っていない。
最近では骨多発転移に対し、放射性同位元素(Sr-89)を用いた「メタストロン注」による体内照射が国内でも用い
られるようになったが、放射線管理上の対応が施設側に必要とされること、その取り扱いに必要な処置技術料等が
すべて医療者側の負担とされているため普及が遅れ、一部の医療機関のみが対応しているに留まっている。
骨転移による体動痛を抑えるのに有効とされているのは骨セメント療法(経皮的着椎体形成術)。骨セメントを注入する
だけなので体の負担が軽い上に効き目も早く(48時間以内)現れる。



■ もっと普及しても良い放射線療法

がん治療全般に言えることですが、日本では放射線治療が、医師からも患者からも過小評価されています。
前立腺がんは放射線治療に向いているがんの一つです。旧タイプのリニアックによる2次元照射は話になりませんが、
最近の70Gy以上の高精度外部照射ならば治療成績も決して外科療法に劣ることはありません。
米国ではいまやがん治療(全がん)の2/3(65%)が放射線療法だというのに、日本ではまだ1/4(25%)に過ぎません。
前立腺がんにおいては、近年、小線源療法の増加が目覚ましく、放射線治療の実施例もかなり全摘に追いついてきました。
しかしまだ、全摘術が圧倒的優位を占める医療施設も珍しくありません。QOLをもっと真剣に考えるなら
放射線治療(ブラキセラピー、高精度外部照射など)はもっと評価されてしかるべきでしょう。
高リスク群の方には高精度外部照射をお勧めします。なかでも高リスク群(2)に属する方には
高精度外部照射の中でも副作用を増すことなく照射線量を上げられるIMRTか粒子線照射がお勧めです。
高リスク群の場合ターゲットを原体局所に絞らず周辺のリンパ等へも適量の予防的照射をほどこす場合もあります。

    ・ 市民のためのがん治療の会 ニュースレター創刊号
     「納得のいくがん治療をめざして」 Dr.西尾正道

■ 放射線治療を受けるなら

    ・日本放射線腫瘍学会  認定放射線治療施設 (← 右欄 日本地図の該当地域をクリック)
    ・ IMRT(強度変調放射線治療)実施施設 ← 増えてきましたが、技術レベルは施設によって開きがあるのが実情です。
    ・ 粒子線治療施設 ← 新しい施設が増えつつありますが、実績ができるまで様子を見たほうが良いでしょう。
    ・ 小線源療法(低線量率組織内照射)実施施設
    ・ 体内照射(メタストロン注:St-89)実施施設

■ 腹腔鏡下全摘除術を受けるなら

    ・日本泌尿器学会 腹腔鏡認定医実技テスト合格者  泌尿器腹腔鏡技術認定医一覧

■ ロボット支援腹腔鏡手術を受けるなら(実績が多いのは東京医科大)

    ・東京医科大  ・金沢大  ・九州大  ・名古屋大  他

■ その他

・低リスクがんに対する治療法HIFU(高密度焦点超音波療法)は米国ではかなり実施件数は多いのですが、まだエビセンスは
 確立されてはおりません。

・高線量率組織内照射が米国で標準療法とされていないのは、米国では早くから密封小線源療法(ブラキセラピー)
 が行われていた関係で、これまであまり行われてこなかった為です。

・上記の標準的な治療法以外にも凍結療法、温熱療法、免疫療法、遺伝子療法などの新しい治療法も試みられて
 いますが、いずれも臨床試験中で、有効性が実証されるにはまだ少し実績が乏しいようです。

・上記のすべての治療法を一つの病院で行っているところはまずありません。医師の治療法の説明は、まずは自分の
 病院で行われている治療法を説明し、次に紹介しやすい(同じ大学の系列とか)病院で可能な治療法を説明する
 ことが多いようです。医師から説明が無かった治療法でも上の早見表にあるものは一つの選択枝であることは確か
 ですから、ご自分で良く調べなおしてその治療法を扱っている病院でセカンドオピニオンを受けてみてください。

・医師は責任を少しでも軽くしたいからなのか、生存率(治癒率)などをかなり厳しく告げることがままあるようです。
 その分、患者や家族の精神的ショックが増大するのですから、これはたまったものではありません。精神的苦痛は確実に
 がん患者の抵抗(免疫)力を弱めます。厳しい結果を告げる事態には、ぜひ、励ましの一言を添えていただきたいものです。



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