口永良部島に
■■  ユース・ホステルを造ろう  ■■
その2

文・イラスト / 貴船庄二



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口永良部島に
ユース・ホステル建設 のための
資金援助を!




 前  項の「島民募集」や本項の 「ユース・ホステルを造ろう(その1)」 を読んで頂いておれば 僅かながらもこの島の概念を持って頂け たかと思います。そこで実際に皆さん に来島頂き、この島が日本の中で最後 の部類に入る残された島であることを 知って欲しいと思います。
このことは 私たち島に暮らす人間にとって非常に恵 まれたことであり、全世界の経済とい う奔流の中で身を削り取られながらも 動くことなく己が存在を主張する巌の ようで在りたいと思います。
この島で 最も大事なことは定期船を大型化した り街灯を付けたりというようなことで はなく、島に暮らす私たちがこの島が世 界の中心であり世界の果てであること を卑小に捉え表現するのではなく、尊 大とも言える誇りを以て表現すること です。現在島に残る数少い青年たちが 腹の深奥にその覚悟の臍を固め、その 磁力によって人を引き付け感化してゆ くことです。

 こ Y・Hくちえらぶは建物が出来 次第オープンする予定ですが決して完 成するということはありません。後々 のことを考えてあちこち植樹し、島の 特産物(自生するシャシャンポのジャム ・竹の子・イカ餌木・風と太陽の塩、 思い付いたら何でも)を作り出し、鶏 や動物を飼い米野菜を作り、魚を獲り 貝を捕り酒を飲み語り遊び、必要に応 じて小屋を建て新たなものを付け加え てゆきたいと思います。そして孫子の 代には様々な大樹に囲まれ夢みる島が 実現することを願っています。
私たち は島の自然が持つ厳しさと優しさの中 で島の緩やかな時の流れの中で暮らして います。ただの観光にとどまらずこれ らのことを勇気ある心優しき皆さんと 共に分かち合いたいと思います。

 支  援下さる方々へ送る宿泊券が出来 ましたのでこの紙面をお借りしてお知 らせいたします。
この宿泊券1枚で大人 一人一泊(三食付き五千円相当)出来 ます。有効期限は無く、他の方に譲っ ても構いません。支援頂いた金額に相 当する数の宿泊券をお送り致します。
この宿泊券は丹後半島に在住される和紙 作家三宅賢三氏に来島頂き指導を受け 、我が家の前の大きなガジュマルの 小技を切りその皮を剥ぎ煮て叩き、失 敗しながらやっと漉けるようになった 和紙でその両面の版を彫り刷りました。

Y・Hくちえらぶ建設についてのお問い合わせ
また支援下さる方は次へ御一報下きい。

■ 連絡先 ■
〒891-4208
鹿児島県熊毛郡上屋久町口永良部島555番地
   貴船庄二
   電話  09974-9-2213

EMAIL(取次):  cap87090@pop01.odn.ne.jp

 口  永良部島にユース・ホステルを造 るぞ!と基礎工事を始めてから1年 3ケ月が過ぎた。現在合掌の据付けが 完了し棟木と母屋を除いて本体はほぼ組 上っている。
私は今Y・Hを放ったら かして島の神社の瓦を葺いている。こ の工賃でY・Hの屋根に張る板を買お うという訳だ。小屋ならともかく百坪 を超すY・Hだから致仕方無い。
早よ せんと腐れっど、と島民から叱咤激励 されるのだが正直少々息が切れる。雨 曝しの電柱と工場を解体して手に入れ たくすんだ合掌は組上った時から既に 廃墟の感を呈している。否、この島を、 Y・Hを廃墟にしてはならじ。

 建  設中の敷地は畑地である。しかも 農業振興地のど真中ときている。上屋 久町農業委員会に出向いて農振地の解 除を求めたところ、申請を出しても恐 らく無理であろう、しかし以前の開拓 家屋が残っておりそれと地続きである から農家住宅としては認められるだろ うと言うことである。
よし!後は野 となれ山となれ、建てて壊せと言おう ものならピンクのヘルメット(町民体 育大会での口永良部島の旗は何故かピ ンク色なのだ)を被って櫓(やぐら) を組んで狼煙(のろし) を上げて闘ってやる! 
私は基礎工 事に着工した。ドラム缶を30本余り 譲って貰い真二つに切断し底を抜いた。 据付け位置を決め缶より少し広く円を 描き30cm程掘り下げてパラスを入れ 地固めした。高台からそれを望むと何 やら遺跡みたいだ。そこにドラム缶を 据えコンクリートを流し込むのだがこ れを独立基礎と言う。


Y・Hくちえらぶ (上)正面図 (下)平面図
入口とテラスのガラス戸を開け放つと硫黄島が見える

 私  たちはただの観光客や釣り客相手 の宿泊施設を造るつもりは無い。Y・H として認められるなら全国及び海外 にも紹介されメリットが大きいと思う のだが、様々な条件から認められない のであれば致仕方無い。農家民宿でも 良いし、それも認められないならただ の農作業小屋でも構わない。私は勝手 に此処をY・Hくちえらぶと称する。
そんなことはどうでもいいのだ。大事 なことは、此処が、この島を日本を世 界を論じ、自滅へと突進する人類社会 の流れから僅かなりとも外れる拠点と なることなのだ。
私たちは日本の世界 の経済化学工学とやらの流れに身を任 せている。私は僅かでもそれから外れ たいと思っている。
私は自給出来るな どと思ってはいない。それは個人レベ ルを超えている。しかし僅かなりとも 自ら食べる米野菜は自ら作りたいと思 う。換金としての農業をしようとは思 わないが自責の念を覚えず楽しく苦し く喜んで出来たものが換金出来ればそ れに越したことはない。

 以  前この島に暮らした時に一度、再び 移り住んで二度、深田を借りて米を 作った。
田を貸して呉れたオジは苗床 や脱穀と色々世話を焼いて呉れた。オ ジが硫安撒いたかと聞くと化学肥科が どうのこうのと言う気も無く、撒いた 撒いたと返事をした。オジは私が撒い てもいないのは分っているのだがそれ 以上何も言わなかった。
稲の茎は短か く刈り取りには雑草と選分けるのに往 生したが台風が接近してもお陰で倒れ ず思ったより収穫があった。田植稲刈 を手伝って呉れた小中学生に分け、敬 老の日に皆で食べたら幾らも残らな かったが嬉しかったよ。
三度目の米作りには別のオジからも 八畝(せ)程の 二年休耕した草ぼうぼうの田 を借りたが、休耕すると如何に草が手 強いものかと呆れた。
島の田は酷(むご)い処は腰まで漬る深田で 耕運機が入らず、三つ叉の鍬で田 を打ち返し草を泥の中に押し込むので ある。この田には私もほとほと草臥れ、 我が家に逗留していた北大生にバトン タッチ、彼は途中で投げ出すのほ嫌だ と言って一週間掛かって打ち返して 帰った。今時の若者でもちっとは骨の ある奴も居る。
作る度にもう止めよう かなと思うのだがその米を食べると又 来年も作ろうかなと思うのだよ。この 往生した田の収穫は肥料も遣らないの に大したものであった。
現在島で米を 作っているのほツギオジ一人でほとん どの田が草ばうぼうである。皆老齢で 息子たちも居らずもう作れないのだ。 島の若者たちは発電所や工事人夫など でそんなしんどい事は誰もやらない。 しかし毎年田を変えて耕せば草臥れる が肥料なんか要らないね。

 米  作りの外に私は何故か塩作りに関心 があった。 我が家を訪れた客人に塩作りをしてい る友がいる。捕岡市から少し離れた小 島で風と太陽で塩を作っていると言う。
客人に案内されてその島を訪ねたが生 憎塩作りの人は不在であった。設備を 見学したがかなり単純で、ものを作る のは努力と工夫で何んとかなるが問題 は販路だ。
細やかであれこの口永良部 島にとって産業になるやも知れぬ、よ しやって見よう。
まだ先のことだが製塩業が本格化したら 「生命の島」でお知らせしよう。

 こ  のY‐H建設で最も懸念したのは 合掌の据付だ。長さ8m余高さ2m 足らず重さは新たに作った合掌は300 kgに近い。
さて15組あるこの合掌を 地面から3m半程の桁にどうやって据 付けるかだ。港にある大型クレーン車 を頼むか、しかしそのためには町道か らの入口を広くせねばならない。
それとも業者の大型ユンボを頼むか、しか しそのためには業者との日程・時間を 調整し工事も手早くせねばならない。
それでは私たち素人集団では危険だ。 労災が適用される訳も無く、瀕死の重 傷を負った手伝いさんに、大変だった ね……まあビールでも飲んで呉れ… …と労を犒(ねぎら)う位 が関の山だ。


合掌  (屋根を支える小屋組み)

 そ  こでこの方法を採る事 にした。長さ8m余り の確りした電柱を建物の中央に立て滑 車とローブを使って人力で上げようと いうわけだ。
島のサトルオジから借りた単純な鉄 の滑車を電柱の先端に取付け、基礎に ポルト締めしたやはり電柱の大床にも う一つ滑車を取仕け、ローブを通して 合掌の山に結び付けた。さあ準備は 整った。皆これで上るんかいなという 顔をしている。とにかくやるしかない だろう。
二人は所定の足場で待機して いる。先ず三人で綱引き宣しくエイサ エイサとロープを引いた。三角形をし た合掌がむくりと起きはしたがキツイ、 中でも一番軽い合掌である。もう一人 が急遽引き手に加わりギシリギシリと 上がり出した。それ!ギシリキシリ。 足場の二人が両端を掴み所定の位置に 固定した。合掌の山に細いローブを二 本結びそれを両側から引いて垂直に調 整するのだが、埼玉からはるばる大工 仕事を覚えたいと島に来たキラちゃん という娘っ子はその一方のロープに緊 張した面持ちで引くと言うよりしがみ ついている。
垂直を確かめ倒れない様 に固定した。やれやれ先ずひとつ怪我 も無く思った程の難儀も無く取付けれ たと私は嬉しく安堵したのだが、まだ 14組もあると思うのか皆何か神妙な 顔付きだ。
とにかくやるしかないだろ う。次の準備に掛った。さあ又四人で 引くのだと思いきや誰かが自動車に ロープを結び付けている。成る程文明 の利器があるのだ。

 私  の干支は亥だ。物心ついた頃から 亥は猪突猛進で…と言われた。世の中 には亥年生まれはゴマンと居てまさか皆が 猪突猛進でもあるまいにと思うのだ が、皆の干支を聞けばそれとなく思い 当る節があり、子ならネズミ丑なら牛 に思えて来るから不思議だ。
私の末娘は寅だ。 虎にしてはちと軟弱ではある が確かに虎に違いない。私の女房は…… 止めておこう。
私は思い込んだらそれしか見えないらしい。
四年前にこの 島へ再び移り住むため兵庫県伊丹市に あるレンタカー屋へ電話を入れ3t車 を借りた。
車を運転出来ない私は友人 と自転車に乗って車を借りに出掛けた。 小雨の降る寒い生憎の天気の中を40 分程かかってレンタカー屋に着いた。 金を払い、そのレンタカーに、乗って来 た自転車を積み込みながらはたと気付い た、何んで此処までタクシーで来な かったのかと。
私は大概の処には歩く か自転車で行く。タクシーなんぞ思い つきもしなかった。
私の後をひたすら 遅れじと付いて来た友人は何故俺は雨 に濡れそぼけて自転車なんぞ漕いでい るんだろうと自問自答したに違いない。

 文  明の利器を使った合掌上げは順調 に進んだ。瀕死の重傷を負う者も無く 最も重い合掌も少し手間取ったが難無 く完了した。
棟上げは新年明けてから になるだろう。
オープンする日を皆さんお楽しみに。

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【追記】
2001年12月末 「ユースホステル」オープンに先駆け
すでに完成済の部分を利用して
まずは  「民宿」としてオープン しました!
ご来訪をお待ちしています!

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〒891-4208 鹿児島県熊毛郡上屋久町口永良部島555番地
   貴船庄二
   電話  09974-9-2213
EMAIL(取次):  cap87090@pop01.odn.ne.jp

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