カンと走る

dog

■97〜99年

カンは近所を普通に散歩するのも十分好きなのだがとりわけ 好きなのは山道だ。
山道の散歩と言ってもリードを外した犬は10km弱を1時間程で 行ってしまうから、 運動不足の人なら後で筋肉痛をおこすか、ことによると 途中で胸が苦しくなることも十分考えられる運動強度だ。 こうなってくると時間的なこともあり、毎朝はとても付き合えない。
マラソンランナーには毎日こつこつ努力している人も多いが、 私はどちらかといえばぐうたらな方だし、 街の中の舗装道路や競技場のトラックなどはどうも性にあわない。
そんなわけで土曜か日曜のそれも大会や練習会のない日を選んで トレーニングを兼ねてカンといっしょに近くの山に出かけ、 山行とランニングを一度に楽しんでしまおうというわけで、 我々走り屋はこれを「マラソン+ピクニック」で「マラニック」と称している。
私一人の練習なら行きたい方へ行けるだけ行って疲れたら 乗り物で帰ってくる事も可能なので、結構自由にコースを設定できるのだが なにせ、カンは盲導犬でもなければ介助犬でもない、ただの犬であるため 交通機関の利用が人間社会では認められていないので、 走って帰宅可能な距離を考えながら進まなければならない。 おいおい出かける範囲が限られてくる。
息子(健)が車の教習所に通い始めているのでそのうち迎えの足が 出来るかもしれない---いやがるかもなぁ〜

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池田に住んでいた頃は五月山から箕面の山一帯が定番ルートだった。
山の上にも自動車道路が通っているのだが、 なるべく足に優しい土道をとるようにし、 許される時間やその時のトレーニング強度に 応じてコースを適宜選定して走ることにしていた。
なかでも箕面の山は自然研究路と言う名の遊歩道が 完備されており走りやすい。 それにどうしたわけか、東海自然歩道もこの自然研究路も 意外にハイカーが少ないのだ。
走り屋にとっては穴場とも言えるが、 税金で整備した道も利用者が少ないとはもったいない事だ。
滝周辺こそ観光客もめだつが、すこし上に登ると 明治の森記念公園にしても箕面ビジターセンター(旧政ノ茶屋跡)にしても 紅葉の季節やゴールデンウィークなど一部のシーズン以外はがら空きだ。

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カンと走るときはリードをはずしているほうがうんと走りやすい。 リードをつけていると、気になる臭いがしたりして急に止まって クンクンとやりだす事も多く、その度こちらも立ち止まる必要がある。 おまけにいっしょに停まってやると、安心して余計長時間クンクン 臭いをかいでいる。
リードなしの時は、臭いで立ち止まっても、こちらがそのまま 走り続ければ、急いでダッシュしすぐに後をおってくる。
それに、何よりリードがだめなのは急な下り道だ。 足元が不安定な時に引っ張られたら危なくってしかたがない。 急にカンが止まっても、こちらは急に止まれない。
平地ならそんな時でもカンを踏みそうになってあわてて飛び上がったり してよけることもあるが、下りでそんなことをすれば谷底へまっ逆さまだ。

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リードをはずして走っていると、困るのが犬の苦手なハイカーと 出くわすことだ。犬を見ただけで顔と体がこわばる人。 中には「繋いでおけ」と急に怒り出す人に出会ったこともある。
だから、なるべく人の少ない時間帯と人のすくないコースを寄って、 人が見えたら呼び止めて道をよけておすわりをさせることにしている。
人の多いところでは、もちろんリードはつけたままだ。

犬は夏の暑さに弱い。 夏に走りにでかけるのは早朝か夕方だ。それでも5kmも走ると 舌をたらして、ハーハーと息をし始める。
舗装道路は特に苦手で、いつだっかか、五月山のハイウェーでは 道路を逸れて脇の草むらに寝そべるし、わざわざ泥だまりのなかに横になる。 日陰の森に入って山をくだる時は元気に走るのだが箕面へ降り、 街の中を池田に向かって走るときは何度も日陰で寝そべり、しまいには 少々休憩してももう動こうとしない。
ちょっとかわいそうになって残り3km程をカンを背中にしょって 歩いて帰ったことがあった。

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宝塚へ移ってからは、山走りのコースが中山連山に変わった。
宝塚といえば六甲縦走の終点(始点)だが、 六甲山にはまだカンを連れて行ったことはない。 家から街の中を塩尾寺まで途中交通量の多い道路を片道1時間弱かかるのと、 そんな道ではリードを離せないので、 犬はいろんな臭いを気にしてあちらこちらで 立ち止まってしまい、私もイライラしてとても気持ちよく走れないからだ。
行きはまだしも、帰りにそんな道をもう一度通ることを考えると つい足が遠のいてしまう。
そのうち、車で近くまで行く方法を考えてみよう。

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中山周辺のコースもバリエーションはそう多くはないが 山としてはなかなか捨てがたい魅力がある。 箕面周辺の山は優しい樹林帯の中の行く感じだが このあたりは、そうした場所の他に、岩がごろごろした尾根や 沢沿いの静閑な道もあれば、周辺がすっぽりと山に囲まれ、 街が近いにもかかわらず奥深い山の中のような印象を 与えてくれる場所もある。

このあたりで最も代表的なのは中山連山を縦走してぐるっと 1周してくるコースだろう。

corse map

カンと何度も走った道だ。
飲水は季節によって異なるが私とカンそれぞれの分を、 計500〜1000cc準備する。 山本まで巡礼街道を走り、沢沿いの道を北へ最明寺の 滝に立ち寄り、 大きな岩盤の岩場を登って高圧鉄塔の建つ見晴らしの 良いところで一息いれる。
この岩場はロープが張ってあり初心者向けのガイドブックでは この岩場を通らないで済む別コースが紹介されたりもしているが、 このくらいはカンはまったく平気である。 登り下りとも早いものだ。

ある日ここの岩場を下るハイカーの集団が岩にへばりついて、 もたもたしている中をカンといっしょに走り降りたら、 みな驚いて見ていた。
「山犬や!」と叫ぶものまで居るしまつだ。

ここからはパノラマコースの縦走路を通り何度か アップダウンをくり返しながら 高度を徐々に上げて進む。歩く処と走れる処、半々ぐらいか。
やがてゴルフ場を眼下に見下ろす岩山の小さなピークに着く。 風がなければ休憩に良い場所だ。
これより尾根がすぐ左にカーブし高圧線の下を通過すると フェンス沿いの道が多くなる。
アップダウンの勾配が少し穏やかになり進むに連れ道幅も 少しずつ広がり走りやすくなってくる。
この辺は左手(南側)がだいたい視界が開けている。 中山の頂上はコースをそれて2〜30m北に入ったところで 私はここから裏側の山々を見て休憩することが多い。
足元は山肌がえぐりとられている。
武田尾方面へはここから北に伸びるやせ尾根へ向かう。

縦走路をそのまま4〜5分走ると頂上展望台で、 ここで休憩する人のほうが多いかも知れない。
ここから北へ下ると樹林の中の沢ぞいの道で夏は特に 気持ちのいい道だが いつもめったにハイカーに出会わない。

ここからは基本的には下りになる。
奥の院までは大概気持ちよく一気に走ってしまう。 しかし境内は犬は立ち入り禁止、飲食も禁止だ。
境内には大悲水と呼ばれる名水があるのだが、 今はステンレス流しと 水道蛇口が設けられており情緒はない。

境内の横をすり抜け奥の院参道を 南に50mほど降ったところから、 右手(西)に折れて「やすらぎ広場」へ向かう。
やすらぎ広場へは走りやすい道で10分もかからない。
ここから自衛隊道路を横切って沢伝いの道をたどる。

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この自衛隊道路もそのまま東へ行けば奥の院参道と 夫婦岩の少し上部で交差する。
奥の院参道はいわばハイカーの銀座通りで、 最近は中高年登山ブームを反映してか若者より 高齢者のほうが圧倒的に多い。
自衛隊道路と参道の尾根道とはフェンスの扉で 仕切られているが、横をすり抜けて 出入りさせてもらっている。
この自衛隊道路は銀座通りを突っ切ってまだ東に 1km程のびているが、端部は突如ちょん切れており、 どうももっと延長予定がありそうなかんじだ。
自衛隊道路は一般には開放されていない道だから 造りかたが頑丈でなく、 今年(99年)の大雨でも数ヶ所山側の土砂が崩れ 道をふさいでいたり、谷側が崩れて路肩に ひびが走っていたりして危険個所も多い。
維持管理がどうなっているのか 私が心配することでもなかろうが、 道路を安易に作ったことによって、 それも大方のひとの眼に着かない場所で、 道路に沿った山が徐々に崩されていくのであれば困ったことだ。

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沢に懸かる丸木橋を数回左右にわたりながら下ると やがて御殿山の新興住宅街が すぐそばに見下ろせるポイントに着く。
ここから暫く進んで急坂をくだると大林寺だ。
ここからはリードをつけてすぐ下の駐車場に出て、 屋台が両側に並ぶ清荒神の参道を通って、 中国縦貫道の下を抜けまもなく左折、 巡礼街道を通って中山寺に戻る。

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実際は何もこの通りのコースを走ると 決まっているわけではなく、 中山寺から奥の院参道を通り頂上を経由して 山本に抜ける場合もあれば、 奥の院参道からやすらぎ広場を通り 清荒神へ向かう場合もある。
頂上へ登るのも奥の院参道以外に 御手洗川の谷筋を遡及したり その東側の尾根を登ることもある。
この東尾根ではこの夏、山火事があり消防車が 何台も近所の道を登って行くは、 家の上空をヘリが何台も飛び回るは、 ちょっとした騒ぎがあり暫く立ち入り禁止になっていた。

また、もっと足を伸ばす場合は、 頂上から北(裏)へ下り十万辻、大峰山を経て 武田尾の桜の園を一周してまた引き返してくることもある。
この帰りを中山頂上から山本経由で くるっと回ると約30kmだ。 武田尾往復はカンを連れてまだ2度しか行ってないが、 このコースを走れる人なら(たぶん犬も)まず フルマラソンはこなせると考えるのが"定説"だろう。

一度カンにもフルマラソンを走らせてやろうと思うのだが 問題は、街の中、人ごみの中ではリードをつける必要があり、 そうするとあちこち臭いをかいでみたり、 出もしないのに立ちションのポーズをとったりと寄り道が増え、 なかなかスムーズに走ってくれないことだ。

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実は今までに2度、大会に犬の参加を打診したことがある。
篠山マラソンと福知山マラソンだが、 篠山はにべもなく、福知山は慇懃に断られてしまった。
犬がフルマラソンを完走した前例の有無は知らないけれど 一度連れて走ってみたいものだ。
犬を連れて一泊はしにくいので、どこか日帰り圏内で 犬を出場させてくれる大会はありませんかね〜

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