2002年

第14回 萩往還250kmマラニック

ひげの父さん@宝塚


萩往還は5年前の第9回大会に140kmの部を走って以来で、250kmの部は今度が初挑戦になる。 250kmはいつかそのうちと思いながらも機会に恵まれず、一昨年は申し込みはしたものの直前の 琵琶湖一周練習会で足を痛め出場を断念。昨年はまためったにない仕事のピークがこの時期と重なり、また断念。 今回は去年秋から、腰痛が長引き、申込みの締め切りが近づいてからも、 参加を躊躇している有様だったのが、3月中旬の淡路島練習会ではその腰痛に苦しみながらも なんとか120km近くは走れたので、体調不良を承知の上で、思い切って申込んでみたわけです。
しかし悪いことは重なるもので、3月末に犬をつれて沢歩きをしていた時に 岩盤で滑落し左ひざを痛打、皿の骨に異状はなかったものの 4月は満足に走れない状態が続き、一時はまたも出場辞退を考えたほどでした。 膝の治り具合の確認を兼ね、直前に琵琶湖を試走したときも40kmで急にその膝が痛み出し、 以後養生に専念するのみだったので、はたしてほんとうに完治しているのかどうか、 不安を抱えたまま本番のスタートを迎える事となってしまいました。

*

瑠璃光寺5/2 18:00にスタート。

厳密には3分ごとのウエーブスタートだがまあその辺は誤差の範囲として省略だ。
上郷までは以前走った140kmと同じコースを行く。
打撲跡が痛み出すようでは早期の リタイアも考えられるだけに特に慎重にゆっくりと走り始める。
そうそう,今から思うと笑い話だが、実は5年前の140kmの時には、 この辺から上郷折り返しまでは、 なんとこの私がトップグループを引っ張って走っていたのだった。 (^^; タラ〜リ冷や汗
上郷到着。 13.4km 5/2 19:30

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日はすでにとっぷりと暮れ、ほどなく真っ暗な秋吉自転車道に入る。
腰につけたヘッドランプの光と前方を行くランナーの 背中の赤色ランプだけが目印だ。 数10mのうねりを数回繰り返しつつゆっくり高度を上げていく。
自転車道の終点(27.6km)ぐらいから懸念していた腰が重く辛くなってくる。
腰の事を考え荷物は最小限にしたつもりだが、30km以前で 重苦しく感じるときは調子が良くない時だ。
3月に淡路島を走ったときは小刻みに休憩とストレッチを繰り返して 進んだが、今回はその都度歩きに切かえ腰の曲げ伸ばしをしながら進むことにする。
ともかくマイペースと言い聞かせながら、じわじわ追い抜かれるが努めて無視。 そのためか早くも一人ぼっちになる事が多い。
秋吉交差点(32.6km)付近にさしかかると 地図の予習のときもわかりにくいなあとは思っていたが 現実もまるでその通り。立ち止まって後から来る人に行く方向を確認する。

このあたりから膝故障による練習不足の影響だろうが、 早くもあちらこちらの筋肉がコリコリし始める。 初期の筋肉痛はゆっくり走っておればそのうち消えてなくなる事が多いから 今度もそれを期待する。痛みが消えても、次々と別の場所が筋肉痛になる。 そのうちに、生じては消える筋肉痛の場所の移動が、 次はどこだろうと楽しみになったりして(^^;

途中道路の右端を走っててそのまま三叉路を右へ入ってしまった。 左の道を行くチカチカライトを発見しそちらへ曲がろうとするものの 道がなくだんだんと距離が離れていく。やむなく引き返す。
(もう少し辛抱して走っていればそのまま合流するいわゆる平行道だったのに)
門村を左(西)に折れて数キロ行くと自販機のそばで ごそごそしてる丸い影のおじさんがそばに寄って来た。INAIさんだった。(^^)
電球が切れたとの事でしばらく同行。
西寺交差点まで来た。 43.9km 5/2 23:30

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しかしINAIさんはエイド横のコンビニで懐中電灯を買い求めるや エードの女子高生達をろくに冷やかしもせずさっさと先に出て行ってしまった。
ムム、普段と行動が違うぞ!そういや目の光もなんか違ってたような・・・
私はゆっくりコンビニにてカンビール休憩(^^; 

女子高生のおねーちゃん達に手を振ってスタート。
ここから線路を越え右折すると道はだんだん急な登りになる。
一人でスタートしたがかなり寂しい山の中に入っていく。 まだ十分余裕があると思っていた電池が以外に早く減ってきてLEDライトが スモールランプになってしまった。替え電池を探したが見つからない。 どうやら宗頭あたりに荷物として送ってしまったようだ。(^^;
月明かりもなく、わずかな足元しか見えない。不気味。
200mぐらい登るとゴルフ場、ゴルフ場の外を半周ほどすると こんどはどんどん下る一方だ。 腰さえ元気ならこういう山道の下りは好きな道なのだが ともかく抑えて、抑えて、ドウ、ドウと言いながらゆっくり下る。
下りきるとT字路。標識に豊田湖の名称が案内板に現れ始める。
左折し橋をわたってどんどん行くと係員が右折の合図。 ここは誰もいない時はうっかり行き過ぎてしまいそうなところだ。
1kmも行くと 豊田湖の食事処。 57.4km 5/3 1:20

*

ん?湖のほとりと思っていたのにいったいどこが湖なん?
INAIさんと藤井さんがまだ食事中だったがすぐに出て行く。
シューズを脱ぐのが面倒かったが奥の畳しか空いたスペースがない。 急いでうどん&おにぎりをよばれる。
出かける時にちょうど中村さんが入ってきた。あれれ、私より後だったんだ。

トンネルを抜け北を目指す。
しばらく行くとやっと右手に豊田湖の夜景が開けてくる。
前後にランナーの明かりがぱらぱら。一路俵山温泉を目指す。

途中、酒屋の電照看板に思わず吸い寄せられる。(オレは蛾か!)
自販機にはうまそうなビールがズラ〜リ!
が、しかし、夜間は販売停止だったのだぁぁぁ、ショックが大きい。 豊田湖でビールを飲まなかったのが悔やまれる。
広くてまだ新しい三叉路を左へ進む。
まもなく 俵山温泉 66.0km 5/3 3:00頃

*

スタート後すぐの分岐を直進しかけると後から 「こっちじゃない?」と声を掛けてくれて左折する親切な人あり。
後を追ってよく見るとなるほど前方に2〜3人の影がある。
付いて行くがどうも道の雰囲気が地図と違う。 分岐に来るたびにその人影も立ち止まって協議しているではないか! あちゃあ、どうやら間違ったらしい。
まあどこかで合流するだろうと思いながら付いていくとやっと 正規のルートから走り降りてくる人と出会う。
何のことはない、始めの道を真っ直ぐ行くのが正解だったのだ。

ふと見ると自販機の横に座り込みすぱすぱタバコをふかす怪しげな影。
何やつ?と思いながら近づくとなんと中村さんが地図を覗き込んでいたのだ。
俵山温泉の街中をうろちょろしてるときに抜かれたもよう。
次の大坊ダムエードを目指し一緒にスタート。すぐに山道の雰囲気となる。
砂利ヶ峠(じゃりがたお)はなかなか登り堪えのある坂道だ。
腰もかなり辛いので途中から中村さんに先行してもらい ポンポコ狸スタイルでリュックを前に廻して歩く。
やっと峠の頂上だ。 登り長けりゃ下りも長い。ダム湖が見えてもエードは遠い。
少しがんばって2〜3人追い抜く。
「エードまだですか?」と聞かれたが、 そんなもん、わかりゃあ苦労せん。
一応「もうすぐです」と答えておく。どうせ暗闇だ。誰だか判るまい。(^^;
橋をわたってすぐの広場に 大坊ダムエードの灯り。 75.8km 5/3 4:20

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中村さんは食事の真っ最中。
風が強くボランティアの方は寒そうだったがウインドブレーカを着て 走っている分にはそれほどでもない。
10分ほど遅れてエードに入ってきたおねーさんは、 ボランティアスタッフに向かって、いきなり
「有料でいいからビールをください!」
とマジな表情で迫っていた。これはちょっと怖かった。(^^;
豚汁がうまい。あわてて2杯戴き早々に中村さんと一緒にスタートする。
油谷町めざして山を下る。それほど眠気は感じない。 立ちションの間に中村さんはまたまた先行してしまった。 けっこう調子が良さそうだ。風がきつい。
坂の途中で空が白み始めたと思ったらあっという間に最初の夜が明けた。
街の中に入りやがて海沿いの道となり油谷湾を左手に見ながら 海湧食堂をめざすがこれもけっこう遠い。
大坊ダムから10kmほどのはずが疲れてくるとだんだん10kmが長く思えてくる。
道はゆるやかなアップダウンの繰り返し。
歩いたり走ったりの繰り返しでやっと 海湧食堂に着く。 86.2km 5/3 6:00

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中村さんはちょうどスタートするところだった。 INAIさん藤井さんはちょっと前に出て行ったという。 かなり喉が渇いていたので水を駆けつけ3杯。
店の人によればワタシでほぼ100人目だそうだ。(食事チケットの数で判る)
もっと後だろうと思っていたのに約半分ぐらいのポジションとは意外な感じ。
おかゆは旨かったのだがおかずをつまんでいるときに急に吐き気を催してきた。
トイレに立って戻す。あ〜あ、もったいない。 顔をあらって席に戻り胃薬を飲む。
先が思いやられるなあ。まあ、しばらくゆっくり行かなしゃあないなあ。
食堂を出てまもなく後から呼び止める声。 なんと道にチェックシートを落としていたのだ! ゼッケンを入れたビニールケースの中に入れてリュックの背につけていたのだが 食堂でチケットを取り出した後、吐いたりしたせいか慌てて蓋を閉め忘れ 背中で揺れているうちにこぼれ落ちたらしい。まったく冷や汗ものだ。
拾ってくれたのは身長190はあるという芦屋のオニーサン。感謝、感謝。
コンパスが大きいのでこちらがゆっくり走っているのと相手が歩いているのとで ちょうど並走状態となる。(^^;

道の真ん中でとんびがこちらを睨んでいる。大きいヤツだ。
近づくと一旦空に舞い上がり悠然と輪を書いてまた少し前方の道路中央に舞い降り こちらを睨む。一見鷲のようでなかなか迫力がある。この辺は野良犬も多い。
朝飯を戻してしまったので何か早めに胃に放りこんでおかねば。 自販機を見つけコーラのボトルを入手。飲みながら行く。
大浦漁港のあたりで折り返してくる人達とすれ違う。
岡村さん、高山さん、Y子さん、クワちゃんなど。
ふじもっちゃんなんぞはすでにもっと先に行ってしまってるようだ。
エードがあったがまだコーラを手に持ったままだったのでそのまま通過する。
しかぁし、気付くのが遅れてしまった・・・実はほとんどの人はここにリュックを預けて 空荷で俵島の往復をしていたのだ!
まあいい、これは私の人生によくあるパターンだ。 私はいつも重荷を背負って我が道を歩むのだ。(^^;

この辺から不思議に背腰の張りがそう気にならなくなってきた。
♪一山二山三山越え〜(ちょっとオーバー)
半ばやけくそで鼻歌なんぞを歌いながら目指すははるか俵島。
やっとこさ 俵島につく。 97.3km 5/3 8:10 CP-1

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初めてのチェックポイントだ。 しか〜し、ここはなんにもないところ。
木の幹の根元にチェックライターを引っ掛けた板切れがあるだけで
♪あとはただ風が吹いているだけ〜。
なにもないという襟裳の岬にもみやげぐらいは売ってた・・・ ここまでの努力はいったい何だったんだぁ。 10ヶ所あるチェックポイントが100km近く来てやっとはじめてのチェックが付くというのも よくよく考えれば無性に侘しい。 どっと疲れて折り返す。

また自販機でコーラをもう1本。ともかくエネルギー補給だ。 しめた、帰りは大浦漁港の酒屋が開いていた。 ここでカンビールを1本。おお、やっとリズムが戻ってきた。
さてと農協スーパー前でこれまでの道と別れて次は川尻岬を目指す。 だが川尻岬へ向かう分岐というのがなかなか現れない。 ビールのエネルギーが切れ始めるとまたまた歩きが多くなる。
小さい分かれ道が2〜3ヶ所ありここを左折かと疑って後続ランナーを 待ってみたがまだまだ先だという。距離表示がおかしいのでは! 自分の頭を疑うより先に地図の距離表示を疑うところが我ながらスゴイ神経をしている (^^;
やっと大きなT字路に出会う。
左折しどっと下れば 川尻岬の沖田食堂だ。 107.2km 5/3 9:40 CP-2

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クニさんのHP上の参考タイムを地図上に落としてきていたが まだ一応その目安の時間をキープできているようで一安心。
着替えをどうしようか迷ったが、まあともかく先に食事にする。 伏見さんがまだ食事中だった。眠いので少し仮眠してから行くとの事。 私は眠気は夜明けとともに吹っ飛んでしまってなんともない。
膝の打撲跡も今のところ鈍痛があって押さえれば痛いが走っていて気になるほど でもない。腰も不思議と始めより楽だ。
カレーが旨くすんなり胃に納まった。しめしめ、調子が安定しだしたかな。
着替えは止めてそのかわりに?カンビールを空けスタート。
先ほどの三叉路までは歩いて登りそれからしばらく走るが左折したとたん とても走れない程の急勾配の下り坂となる。道幅を一杯に使って蛇行しながらくだる。
ぱっと視界が開けたら棚田の風景だ。思わずおっと声がもれる。 棚田の向こうに千畳敷きと思しき山も望まれる。あれかぁ、遠いなあ・・・

川尻漁港を抜け、大浜海岸へ、シーブリーズで休憩。オレンジジュースを1杯。
数人で一緒にスタート、
立石観音まで人様の尻について行く。 117.2km 5/3 12:10 CP-3

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いよいよこれから千畳敷を目指す。
海沿いにアップダウンを繰り返す道が海岸線を離れ山へ向かうと 道はだんだん急になる。
途中から大阪の女性と一緒になり話しながら急坂を登る。 歩いて登る分にはまだまだ余力あり、相手に合わせる。 雲行きが怪しく時々雨がぱらつくようになる。
千畳敷着、 124.6km 5/3 13:40 CP-4

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ともかく風がきつい。背と腰のストレッチのためしばらく前かがみになっていると、 おっと頭を下げすぎたのか急に頭がくらっとして景色が回転し始めた。 あわててチェックライター横のフェンスのコンクリート基礎に座り込む。 首を廻したりたたいたりしているとすぐに収まったが、ああやばいやばい。
念のためちょっと休憩して行こうと思い、山小屋風の喫茶店に入る。 コーヒーの後ソフトクリームも注文。食べ終わって外へでると風がきつくて震えそう。 ソフトクリームで体が冷えたかな。

自販機でまたコーラを買ってから千畳敷を下りはじめる。 もっと山道かと思っていたらここは以外にも立派なアスファルトの拓けた道だ。
(ここ以外はほとんどの道が地図で予想したよりも山の中だった)
しかし道幅は広いが歩道はない! この道を下る途中で雨が激しくなってきた。 やがて雷も鳴り土砂降りを通り越してこりゃもう豪雨だ! 千畳敷の観光客も引き上げるためか下りの交通量もやたら多くて 雨水のたまった路肩を走らざるを得ない。
ちょうどこの時ケイタイが鳴る。白井さんからだった。 ありがたい電話だったがはげしい降りの中、 ケイタイの防水性能も気になってそうそうに切らせていただく。
途中農機具の小屋の庇を借りてウインドブレーカのパンツを履くが ビニールのレインコートは川尻に送っておいたのにリュックに入れるのを 忘れてしまった。これも失敗だ。まあ、ウインドブレーカの上着も ナイロン製だしまあ大丈夫かと思っていたがなんのなんの。 手に持っていた地図を慌ててそのままポケットにしまいチャックをしたのだが まもなく水がしみこんで地図はぬれてぼろぼろになってしまった。
シューズの中はもうぐじゅぐじゅで足の裏がふやけてくるのがわかる。
やけくそでスネ下部の痛みをがまんしそこそこのスピードで水を蹴散らして走って降りる。 ほんの数キロ走るうちに脚に豆が出来たのが判る。
雨から逃げるようにして 西坂本のエードに転がり込む。 128.6km 5/3 14:25

*

なんと乾いた靴が玄関に並んで奥の畳では数人がおいしそうにカップ麺を 食べているではないか!
もう、むっちゃくやしい〜、このぬれねずみじゃ畳にも上がれない。
しかぁし、お手伝いの女子中学生が親切にメニューを説明してくれている間に、 だんだんおじさんの気分も和んでくる。(^^)

どんべえ肉うどんを玄関先で食べていると、やはりずぶぬれのクニさんが入ってこられた。 千畳敷の上で豪雨にあったとの事。
雷雨警報もでて先頭グループは宗頭で待機させられてるらしいという情報を聞く。
そうか、もう先頭グループは宗頭についているんだぁ。

食べ終わり一足お先にスタートする。
スネの下部が痛くなってきているのと豆が痛いので始めはゆっくり進んでいたが 適度な道路のアップダウンに調子が出てきてまずまず気分よく走れる。
雨は小降りにはなったが降り続いている。 黄破戸の海岸縁の自販機でホットミルクティーを買ったが 指先や爪がふやけて柔らかくなっており缶のプルトップが開けられない。 木箱の角にぶつけてやっと蓋が開いた。(オレは猿か)(^^;
長門市でスーパーを見つけビニールカッパとお茶のボトルを買う。 カンビールの自販機発見。ぐっと1本。 そうこうしているうちにクニさんが追いついてこられた。
まもなく 仙崎エードに到着。 142.3km 5/3 17:10

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今日も1日走り続けてもう夕方を迎えるというのに宗頭に向かうのは ここからまだ鯨墓往復を終えてからなのだ。往復の距離はちょうどハーフマラソン1本分。
あ〜ぁ、疲れるなあ。
荷物は仙崎エードに預けてクニさんと一緒に鯨墓に向かう。 ベテランといっしょなので気が楽だ。おしゃべりしながら進む。 ここでも折り返してくる知り合いに次々すれ違う。
途中静ヶ浦キャンプ場のエイドに立ち寄り食事。ここでもカレーを頂戴する。
鯨墓手前では藤井さんともすれ違った。
下りを走るとスネの下部の痛みが増すので しっかり登ってそろそろ下る。
またもや♪一山二山三山越え〜の歌を思い出す。
日が暮れかけるころやっと 鯨墓到着152.8km 5/3 19:10 CP-5

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クニさんはここでお知り合いの女性と歓談。ちょっとタイプ(^^)。 クニさんと一緒にスタートすれば良かったものを、 私も少しはおしゃべりさせてもらおうと
「熱いお茶をもう1杯」とかなんとか余計な事を言ってしまい、 お茶を飲み終わってあわててクニさんを追いかけるが、もはやあとの祭り。
陽はすでに完全に落ちてしまった。 ライトはまだ夕べの電池のままなのでスモールランプしか点灯しない。 この辺の道には街灯なんてものはなく、なんとか見えるのは脚元の一坪範囲だけだ。 ともかく真っ直ぐ進みゃなんとかなるだろう。
そうこうしているうちに腹具合がおかしくなってきた。 なんとかキャンプ場まで戻ればトイレがあったと思ってがんばるものの 刻々と限界が近づく。もはやこれまで、やむにやまれず道横のブッシュに飛び込む。
ライトが近づいてきた。ヤバイ。こちらもライトを消して息を殺す。 歩道からわずか1〜2mのヤブの中。音を立てたらきっと相手のほうが肝を潰すだろう。
あちゃ〜、リュックを置いてきたのでティッシュがない!(^^;
中腰のまま手を伸ばし、なるべく大きくてやわからそうな木の葉を数枚ちぎり取り、 股連れでひりひりする尻をやさしく拭いて、そして凛々しく立ち上がった。

遅れを取り戻すぞ、と思いつつ、とことこ薄暗いライトで前進するのだが、 一人になるとついうつらうつらとしてしまう。
左の海側を走るとふと居眠った時海に転落しそうな予感がして あわてて反対側に移動、以後ひたすら右端を進む。
鯨墓へ向かう時はクニさんにくっついて走ってただけなので思い返そうとしても 地形をほとんど覚えていない。で、今はおまけに真っ暗だ。
♪行きは良い良い、帰りは怖い
どんどん進むと道がだんだん狭くなってきた。いつのまにか集落の中を通っているようだ。 こんな道だったかなと不安が過ぎる。 窓から灯りのもれている家もあるが、さすが扉をたたいて道を聞くのは気が引ける。 どうやら漁港の雰囲気だ。 夜も2晩目ともなると頭のネジもゆるんでいて、 初めてのような気もすれば、見覚えがあるような気もしてくる。 悪いことに地図はリュックに入れたままだ。
立ち止まって先ほど下を通り抜けた大きい橋を見上げてから、どうやらこれは間違いらしいと気がついた。 そうだ、往きはその大きな橋を渡ったんだ!
結局、青海大橋を渡るべきところを足元だけしか見えないライトで右端を 歩いていたせいだろう、 橋の右横をすり抜けてそのまま漁港の中にどんどん入っていってしまっていたのだ。
それから引き返し、ようようにして荷物を預けておいた 仙崎エードまで たどり着いた。 163.3km 5/3 21:20

*

ウエットティッシュで念入りに手を拭いて(これはずいぶん役立った) コーヒー&お菓子をよばれ、足裏の豆の水ぶくれはゼッケンの安全ピンを外して 潰し、カットバンの上からキネシオテープを巻きつけ、さて、心機一転宗頭向かって出発だ。

LEDライトの電池は特殊だからコンビニに売っているかどうか、無くて元々のつもりで 店に入ったら売っていた。しかし高い!¥800(普通は¥500、安い店なら¥398)
コンビニを出ると宗頭まで道がわからないという人が外で待っていた(^^;
あちゃぁ、ワタシも同類ですがまあ一緒に行きましょう。という事で走り始める。
地図では海沿いに進む表現になっているのでその通りに行くと またまた道は漁港へ入っていく。複雑な道で曲がや行き止まりが多くまるで迷路だ。なかなか前へ 進めない。やっと脱出できたものの、またまた余分な時間を取られた。 どうも漁港との相性がよくないようだ。
仙崎から踏み切りを越えて国道に出るあたりまでがどうも地図ではわかりずらい。
本来なら途中矢印のひとつもあったかも知れないが雨でたぶん消えてしまっていたのだろう。

国道へ出て電柱の明かりで宗頭までの道順を確認していたら後から一人近づいてくる。 聞くと去年も走ったので宗頭までなら道もわかるとの事で一安心。
ここから3人でややピッチを上げて前進。 コンビニ前でいっしょになった彼は胃が不調らしい。 数回、戻しながらも懸命についてくる。
仙崎から宗頭まで約12kmだがどういうわけかむちゃくちゃ長い。 国道を走る(歩く?)が思考はほぼ停止しなんとか足だけが動いてる感じ。
やがてバイパスと合流して左折するのだが、たしかその直後だったと思う。
道路の反対側右前方に馬が数頭歩いているではないか。たぶん幻覚だ。 どうせなんかの見間違いだろう、と思いながら目を凝らすのだが 先頭は栗毛で毛並みのゆれかた、筋肉のうごきなど全てがリアルこの上ない。 まるで映画の一場面のよう。空想ではとても想像できないリアルさなのだ。
おおすごい!(でも、絶対幻覚だと思う冷静さはどこかにあった)
やがて街灯の明かりに近づくとそれらは4人連れのランナーの姿に変わった。
リュックを背負ってちょっと猫背気味に頭を前方に突き出しているのが 先頭の馬の首に見えていたのだ。3D画像の絵本というのがある。 ジッと見ているとリアルな立体像が 浮かび上がってくるがちょうどそれに近い感覚といえばよいのだろうか。
まだかまだかと思う頃やっと 宗頭文化センターに到着。 174.9km 5/3 23:55

*

おにぎり3個出していただいたがどうもすんなり喉を通らない。こういう事もあろうかと、 荷物と一緒にあずけておいたレトルトのおかゆを味噌汁の中に放り込んで食べる。
さっさと出発したかったが、仙崎のコンビニから一緒だった人が少し眠らせてくれという。
その間、簡単にシャワーをあび、着替え、それにつぶれた豆の手当てをする。
股ズレにもワセリンを縫り、股ズレの原因だった登山用アンダーパンツを履き慣れたスイミングパンツに 替えるといっぺんに尻が楽になった。
また大会前にシューズの両かかとが極端にちびていたので、"シューズドクター"で補修をしたのだが、 宗頭でシューズを履く時にふと底を見ると補修材はすでに跡形もなくはがれ去っていた。

結局、午前1:05(日付が変わって5/4)にスタート。
潰れた豆のため足を引きずってのスタートだったので、スタッフに「大丈夫ですかぁ」と尋ねられる。 御心配いただくのは嬉しいが、大丈夫かどうかなんて自分でもわからんワイ。(^^;
しかし、不思議なものでしばらく歩いていると足裏の痛みはそれなりに慣れてくる。
ただ、スネの下部が痛いのに混じって右足外側のくるぶし下が時々痛む。
いままであまり記憶のない場所の痛みなだけにちょっと気にかかる。
だらだらとした坂を上りなんとなく道なりに進む。
時々道路標識が人間に思えたり、後ろにライトもないところで自分の影が 前方の茂みにそって移動したり、なんか変だなあとは思うものの まあよくある程度だなとも思ったり、思考力はたしかに低下しているものの それほど極端な眠気は襲ってこない。事実ちゃんと真っ直ぐ進んでいる。
藤井酒店到着。 177.9km 5/4 2:00頃? CP-6

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ここで左折。道はどんどん山の中へ入っていく。 間違ってないかちょっと不安が過ぎるが両側に大木の並ぶ急坂を登るあたりで 先行のグループに追いつく。
どうやらコースガイドは鈴木さんという女性の方らしい。 聞けばネイチャーランにも出ているベテランのよう。 失礼ながら見かけはとてもそうは見えないが、こちらも三見までの道のりが 不案内なので一緒に付かせてもらうが、かなり遅い。
ちょっと気があせるがまあ歩調をあわせる。ほとんど歩きだ。
車道に出てから三見の左折ポイントまでが長くさらにそこから三見の駅までが 何の明かりもない長い道だ。 半分居眠りながら歩く人が多いのでいつもまにかグループもバラケて来ていた。 三見の中学校を過ぎたあたりから道がわからなくなる。 新しい道路も出来ているようでずいぶん地図と感じが違う。
うろちょろ駅を探しているとケータイが鳴った。かのんさんだ!
聞けば三見の駅に居るという。OH!、酒元さん、NAMIさんもいっしょとの事。
NAMIさんの説明で現在地点もほぼわかり眠気も吹っ飛び駅へ向かう。
三見駅着。 187.1km 5/4 3:50頃? CP-7

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ここはお茶とあめだけセルフサービスのエードだ。しばし立ち話。 先行するランナーの情報も聞く。さて、これから萩市内へ向け出発だ。
2番目の踏み切りを渡ると聞いていたが すぐに小さな人だけが通れる踏切を発見、その踏み切りを1番目と判断して 次の踏み切りを渡ったがどうも道が細くなり雰囲気がおかしい。 引き返してその次の踏み切りを渡ると、今度はうまく道が続いていた。
この辺でやはり250km初参加の人に追いつき一緒に行く事にする。
人と一緒の方が眠気に襲われなくて良い。
踏み切りをいくつか越えるがこの辺は予想以上に山の中だ。雨も断続的に降り続いている。 道も疑いだすとキリがないし確かにこの辺は一人じゃ不安だ。
萩が近づくにつれ夜が明け始め3日目の朝を迎える。
玉江駅のエードに着く。 193.9km 5/4 5:30頃? もう時間もはっきり覚えていない。

*

玉江では仮眠の誘惑を振り切って早々にスタート。
萩城の横を通り(風景がなつかしい)菊が浜あたりでまた急に雨脚が強くなり しばし近くのホテルの庇を借りて小休止。
橋を渡り一路笠山を目指す。
東光寺に10時までに着けばあとは余裕だからがんばりましょうと同行の人 (木村さん)と励まし合い、ややスピードアップ。意外と快調に走れる。
国道ではクワちゃんとすれ違うがかなり足を引きずってつらそうだった。
国道を左折、明神池手前で山田(慎)君とすれ違う。
「この時間なら楽勝ですよ」と言ってくれる。
明神池から笠山の登りにかかった所で自販機休憩をしていると 近くの茶店で休憩していた藤井さんが私を見つけて出てきたくれた。
一緒に笠山を目指す。今回私は登りはなぜか余裕がある。
笠山の頂上に着く。 204.4km 5/4 7:30頃 CP-8

*

木の根元にパンチが置いてあるだけ。早々に退散。
この辺でマッチャンから電話、まず完走は出来るだろうと思いながら ちょっと控えめに完走確率は70%ぐらいかなあ・・・と言っておく。(^^)
虎ヶ崎まではどんどん下る。
先ほど少しがんばって走った影響か下りになるとスネ下部と右足の外くるぶし下部が 痛む。特にくるぶし下部がだんだんいやな痛みに思えてきた。
虎ヶ崎着。 207.1km 5/4 8:00 CP-9

*

ちょうど伏見さんと入れ替わりだった。
椿の館で食事(炊き込みごはん)、美味しかった。
ともかく東光寺までは早く行きたかったのでちょっと気持ちは焦り気味だったが 皆さんは比較的落ち着いていらっっしゃる。
帰り道は引き返さずに遊歩道を回るほうがアップダウンが少ないという 藤井さんにじゃあという事でお供させてもらう。
そのときはあるいは遠回りかもと感じたけれど、やはりこの道のほうが正解だったようだ。
国道に出てからは10時までには東光寺に着いておきたいというと藤井さんも 気合が入ったのか、足をかばって走り歩きの私を、前に出て引っ張っていただいた。
萩焼会館前 9:30頃
東光寺着。  215.3km 5/4 9:50 CP-10

*

そしてなんとそこにはくーさんが待っていてくれた。
いやはや驚いた。山口から往還道を歩いて来たと言う。
「はるばると応援どうもありがとう」
残り35kmだ。140kmの時はここから6時間で山口まで行けた。 多分今回は7時間ぐらいあれば行けるだろう、まだ8時間残っている! 早歩きでも十分間に合うはず、と思い一安心。

自販機休憩のあとすぐ出発。
坂道ではへばり気味に思えた藤井さんだったが平地ではねばり強い。 きっと練習の成果が現れてるのだろう。
スネの下部の痛みはましになってきたが今度は右足の外くるぶし下のほうが 局所的に痛むので、腱鞘炎になりそうな予感がする。 少し無理をすれば走れるものの先は長いしなるべく大事に行こうと思う。 萩の市内では藤井さんの後にくっついて走る。
まずまずの良いペースなので途中INAIさんにも追いついた。
萩の踏み切りを渡るあたりで外くるぶしの方の痛みが気になりだし 止まってテーピングの処置をする。素人療法だがまあしないよりはましだろう。
いよいよ往還道に突入。
140kmや70km、歩け歩けの人達とすれ違うが、 雨のせいか「がんばってぇ」の声もどことなく湿りがち。
びっこを引きながら登っていると三見の手前で一緒だった鈴木さん(女性)と出会う。
「アイシングすれば」と言われしばらく先の水道で足を冷やす。 水は冷たい。足の付け根までしびれが登ってくる。
顔なじみの方々とはぐれ一人旅になったが知ってる道だからまあ良いか。 登り坂をとことこ進む。ほどなく 有料道路料金所エードに到着。  222.8km 5/4 11:20 

*

すると、おお、なんとそこには中村さんがぁ!
元気に先を走ってるとばかり思っていた中村さんが寒くてリタイヤするという。
えぇ!何でっ?て感じ。ちょっとショック。
次の定期バスに乗るという中村さんと別れてともかく明木へ向かう山道へ足を踏み入れた。
細い山道は雨で滑るし石に足を乗せるとよけい外くるぶしの辺りが痛む。
下りになるとなお辛い。雨は土砂降り。

・・・腰痛、膝の打撲、いつ止めても不思議じゃない体調だったのに・・・ まだ頑張ってる・・・足も痛いけど・・・ここで止めると軟弱だよなあ・・・ ともかく明木までは・・・でも・・・それからどうしよう・・・

ちょっと気分が落ち込んでた時に、急に、「タケウチさ〜ん!」と応援の声! 見ると屋根だけの休憩所の下でかのんさんと酒元さんだ。
予期せぬ応援に喜んで屋根の下に走り込む。
140kmに参加のうずらさんやSataさん、先に行った250kmの人の話や中村さんのリタイヤ等も話題になる。
気の緩みからか
「私もちょうどリタイヤを考えてたとこなのヨ。」とつい言ってしまった。
「えっ、うっそう。」
「いやぁ、ほんま、ほんま。」
てな会話をしているうちにも軒端を零れ落ちる雨は滝のよう。
外を行くランナーの頑張りがだんだん他人事のように思えてきた。

そとくるぶし下部の痛みも気にかかる。
・・・以前、少し無理をしただけで半年も走れなくなった事もあるがそれだけはゴメンだ。・・・
連休直前にめずらしく(^^;仕事の依頼の電話が入り、赴く日取りを連休明けそうそうに 決めてしまっていたが、実は、これが最後まで頭を離れなかった。
・・・大事な打合せだけに靴も履けない様では具合が悪い。万一仕事が流れたら・・・
考え始めるとつい最悪のケースを想定して、判断が弱気になってしまう。

NAMIさんが中村さんの様子を見に車で出かけていたという事だったが、 戻ってきて、
「ええっ、まだ時間もあるのに、行かにゃあ!」と言ってくれた。
一瞬嬉しくなって
「そうだ、行こう!」と思い直したのは良いが
「これこれの仕事の段取りもあってどうしようかと・・・」
先ほどから思案していた言わなくてもいいような事までついでにウジウジ言ってしまい、 きっとNAMIさんもこりゃ私にまかせなしゃあないと思ったんでしょうねえ。
たぶん「行く!」という決断を期待しての事だったと思うのですが
「じゃあ、どうします?」
ともう一度聞かれて、多少の躊躇の末
「えぇい、止めます!」

*

私の萩往還道の旅はここで幕を閉じました。
足が痛かったのは事実ですが、それはリタイヤの直接の原因ではありません。 まだまだ時間は十分あったし、我慢できる範囲を越える痛みではなかったし 携帯していた痛み止めの錠剤を飲み、バンテりンをまめに摺りこめば 少なくとももっと前へは行けたでしょう。
しかし、結局、"萩往還の完踏"と"びっこによる仕事への影響"を秤にかけ、 完踏へのロマンをかなぐり捨てても仕事を優先するというセコイ判断をしまったわけです。
心配していた足も、あのときの痛みがうそのようにすぐに治ってしまったので、 後になって思うに、あと26km、足に無理を強いても、あるいは大事に至らなかったのかも知れません。
「なんで止めたの?」と聞かれても決定的な理由がないだけに、 一言では言い辛いのですが、要は、ゴールへの執念の差が、その時の自分にそういう判断を させてしまったということなんでしょう。

後になって振り返ると色々思う事はありますが、 不十分な体調でも、全てのチェックポイントを廻れたという意味では、 それなりの自信も持てました。
リタイヤ地点。 224km
あの時、あの場所では、よくぞここまで付き合ってくれたという膝・腰・胃への感謝の念と同時に、 完踏のイメージだけはこの手のひらに掴んだぞという、ひそかな幸福感がちょっぴりあったのも確かです。

*

瑠璃光寺へ向かうバスは萩から折り返してくる「歩け歩けの部」の人達でいっぱいでした。
「座られますか?」と親切に聞いてくれた方も居られましたが、 丁重にお断りし、つり革に掴まって安堵感に身をゆだねたまでは良いのですが、 ふと気がつくと、睡魔の一撃をくらい、手は吊革を離れ、だらしなく床に崩れ落ちていました。


----- 完 -----